企業が本来行うべき「働き方改革」とは? ~ 会社と社員の双方がメリットを得られる「働き方の選択肢」を用意する

政府の政策のもと、多くの企業が「働き方改革」を行っています。ですが、政府が推し進めている「働き方改革」は、実際に企業が行うべき「働き方改革」とは、必ずしも一致していないことも明らかになっています。

このノートでは、企業が成長し、かつ、会社も社員も双方がメリットを得ることができるようにするために、以下の働き方改革の要点を解説します。

◆ 働き方改革の背景は?
◆ 働き方改革で発生している問題は?
◆ 企業にとって必要な働き方改革の方法とは?

会社と社員の双方がメリットを得られる「働き方の選択肢」を用意する

働き方改革が様々な企業で行われている

現在、政府が「働き方改革」を推進しています。そのため、テレビや雑誌などのメディアでも「働き方改革」の特集が組まれています。今は就職活動の時期でもあるので、優秀な新入社員を確保する目的で「自社の働き方改革」をアピールしている企業もあります。

一言で「働き方改革」と言っても、その直面する課題と方法は企業によって様々です。働き方改革に関する課題には、「非正規雇用の処遇改善」「労働生産性の向上」「長時間労働の是正」「女性の労働参加」などがあります。その課題のための施策も「テレワークや在宅勤務の推進」や「残業の削減」など様々です。または、「会社に保育園を用意する」というのも働き方改革の1つです。(この「保育園を用意する」ことは、子供を育てる女性が少しでも働きやすくなるため、私たちも是非加速してほしいと思っています)

政府の推進する働き方改革とは?

政府が働き方改革を推進する背景には「日本の人口(労働力人口)が予想以上に大きく減ってしまい、日本という国の国力や生産力が下がってしまう」という問題に直面しているからです。その対策として、以下のことが必要だと考えられ、企業が推進しています。

1. 女性や高齢者などの働き手を増やす
2. 出生率を高めて将来の働き手を増やす
3.「低い低い」と言われている一人当りの生産性を高める

企業の働き方改革の多くは、「残業をなくせ!」

メディアや雑誌などの働き方改革の特集でよく目につくものは「長時間労働の解消」という課題です。「長時間労働の解消」の課題に対して、企業内で最も行われている対策が「残業をなくす」や「テレワークや在宅勤務の導入」です。

ある企業では「残業をしなかった人に『残業しなかった手当』をだす」ことが行われています。企業の総コストに対して人件費の割合は高いため、売上を減らすことなく残業代を削減できれば業績を大きく改善する事ができます。さらに、残業や通勤時間を減らすことができれば、社員がより元気で健康となり、会社も明るく活気づきます。

以前と比べ、社員の仕事に対する価値観も変わりつつあり、就職活動中の学生や若手社員には「仕事よりも日常の生活を大切にしたい」と考えている人が増えています。ですから、この「残業をなくす」という考え方を尊重すべき時代ともなっています。

「残業をなくせ!」が、様々な問題も引き起こしている

ですが、その一方で違う声もあります。会社が急に残業を抑制したことで、「残業代がないと生活できない」という声もよく聞きます。たとえば、毎月残業代を上乗せした月給を手に入れられることを前提に住宅ローンを組んでいるのです。残業代が入らなければ、家を手放さなければなりませんし、返済できない負債を抱えてしまう可能性もあります。

その個々の事情や苦悩は理解できますが、「毎月残業してもよい」ということを簡単に受け入れるわけにもいきません。「残業代のためにダラダラと長時間仕事をしているのではないか?」という問題があるためです。本来は、残業をすることなく、規定の時間内で仕事を済ませるべきです。

仕事が多すぎるのか、それとも、ダラダラと仕事をやっているのか、それを見極めることが難しいですが、基本は就業時間内で成果を出すことが求められるべきです。

また、「残業しなければ、売上目標は達成できない!」という声もあります。大きな売上実績を達成している営業パーソンというのは、「できるだけ多くのお客様に対応したい!」「お客様にできるだけ役立ちたい!」という意識をもっています。「限られた時間で」というより「時間が許す限り、もっと多くのお客様に役立ちたい、貢献したい」ということを価値観にしています。この価値観は、営業パーソンが大きな売上実績を出すことにつながる重要な価値観です。ですから、売れている優秀な営業パーソンというのは、残業が多いハードワーカーの傾向があります。

時折、テレビドラマや漫画などに「定時までしか働かないのに、一番良い成績を上げる営業パーソン」という設定の登場人物がいますが、私が見てきた高い成果を上げている営業パーソンたちは、時間など関係なく働いていた人たちでした。

残業をなくせば、働き方は解決できるのか?

今、多くの企業が「働き方改革」を行っていますが、「残業をなくす」を行なうと、本当に、社員そして、企業の生産性の向上に役立つのでしょうか?

「残業を減らす」ことは、今回の政府が主導する働き方改革によって初めて行われることではありません。過去20年も30年もの長きに渡って、多くの企業が実施してきたことです。この「全員一律で残業をゼロにする」や「全員一律残業の削減」などは、残業に対しての社員の考え方を変えるためのショック療法的な効果はありました。しかし、一時的には効果があるのですが、ほとんどの企業が「残業を減らす」という組織風土を変えるまでに至らずに、もとの状態に戻っていました。

また、「一律で残業を減らす」と、ほかの人の仕事を助けなくなることが明らかになっています。人の仕事の手伝いなどをしている余裕がなくなるからです。以前、成果報酬制度を導入した企業でも、「ほかの人の仕事を手伝わなくなった!」という問題が起こり、企業としての業績は悪化していました。

たとえば、営業組織では、たくさん売ることができる成績の良い営業パーソンの「売る意欲/モチベーション」を低下させます。優秀な営業パーソンが、新規のお客様との新たな取引を作り、既存のお客様と以前よりも大きな取引を実現してくれるから、企業が発展できます。「売れている営業パーソンがもっと売れるようにすること!」は、投資効果の高い重要な経営施策の1つです。その効果は是非手にすべきなのですが、「一律で残業を減らす」をしてしまうことで、その効果を手に入れられなくなるのです。

政府は、働き方改革の一部として「プロフェッショナル制度」を推進していますが、「プロフェッショナル制度」もただ導入しただけでは、上で説明したとおり、以前失敗した「成果報酬制度」と同じ結果となるだけです。

それぞれにとって必要な「働き方改革」の目的をもう一度考える

企業の経営者が働き方改革を通して成し遂げたいことは「生産性の向上」です。「ハーバード・ビジネス・レビュー 2017年度7月号」では、日本電産の永守社長のインタビューが掲載されていますが、永守社長も「社員一人ひとりの生産性を高めることを目指す」と言っていました。

ですが、「残業してでも、もっと働いて自分を高めたい社員」もいます。または、「残業するよりも日常の生活を大切にしたい社員」もいます。成熟した日本では、社会環境が大きく変化しており、従業員が求める働き方は1つではありません。働き方への要望は多様化しています。社員は、多様な働き方を選択でき、その選択した働き方で生産性を向上することを望んでいます。

多様な働き方のオプションを提供すれば、社会的な課題である雇用が増えない理由の1つ「雇用のミスマッチ(人が集まらない/人がやめてしまう)」の問題を解消することができます。それによって、生産労働人数を増やし、その働き方に見合う形で生産性を向上することができます。

以上のように、本来、働き方改革は「多様化する社員のニーズを汲み取った組織改革を通して、生産性をさらに向上させること」を目指すべきであり、そのためには「残業を減らす」「テレワークを導入する」という単純で一律な対策だけでは不十分です。

過去、多くの日本の企業は、「開発」「生産」「営業」「サポート」「総務」という働き方の区分しか用意をしていませんでした。今までの日本の雇用は「就職」ではなく「就社」の状態でした。この意味は、「職務を選択していたのではなく、会社を選択していた」ということです。また、会社は「開発」「生産」「営業」「サポート」「総務」などの区分にたいして、それぞれの職務の目的や職務の明細を定義しませんでした。「状況によって職務内容が変わるため、会社や上司の意向に沿って職務を行う」という状態でした。そのため、社員の評価は、働いた時間や経験年数が中心とならざるを得ず、それによって給与額や昇格が決まりました。

「多様化する社員のニーズを汲み取った組織改革を通して、生産性をさらに向上させること」を目的としますと、働き方を変える必要があります。今、企業に求められている働き方改革の成功のカギは下記の2つです。

◆ 仕事のモデルそのものを見直すこと
◆ 多様な働き方ができる組織制度設計を行なうこと

真に必要な「働き方改革」は、仕事の選択肢を増やすこと

働き方改革で会社が行わなければならない最も重要な事は「開発」「生産」「営業」「サポート」「総務」のそれぞれの区分に複数の選択肢を用意し、社員が選べるようにする仕事のモデル化です。たとえば、「営業」という区分においては、ジョブディスクリプション(職務明細書)形式を活用して、複数の働き方の選択肢(職務設計・評価体系)を作ることが必要となります。

複数の働き方を用意するためには、下図のように、表(マトリクス)で考えます。

図のように、横軸は「社内営業」「外回り営業」のように職務内容で分類します(「新規開拓営業」「アカウント営業」という分け方もあります)。縦軸は「残業をしない働き方(定時労働)」「残業代が給与に含まれるみなし労働の働き方」などです。営業という組織において、10も20もの選択肢を作る必要はありません。ですが、少なくとも3個の選択肢を準備すれば、様々な働き方を提供でき、社員はその選択肢の中で今まで培ったスキル(もしくは、自ら獲得したいスキル)を最大限に発揮し、会社の成長に貢献してくれるのです。

会社は、複数の選択肢に基づくジョブディスクリプション(職務明細)とその評価・報酬体系を示します。社員は、会社が用意した働き方の選択肢から自分のニーズに合わせた職務を選びます。そして、会社と社員は、合意した働き方において、成果を最大化するように努力します。社員のニーズにあう働き方の選択肢を準備することで、このように生産性の向上を目指すのです。

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政府が進めようとしている「働き方改革」をそのまま推進しても、真の「働き方改革」は実現できません。政府が言っていることをただ鵜呑みにする働き方改革ではなく、会社と社員にとって効果的な働き方を模索することが大切です。そして、実際に「働き方改革」を行うときは、働き方への要望が多様化していることを認識して、知恵を発揮し、緻密なプロジェクトとして推進することが大事です。

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(本ノートは、2017年7月2日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳(てらおたくみ, Takumi Terao)
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