「チームを成長させるプレイングマネージャー」と「できないプレイングマネージャー」の差は? ~ 事業を成長させるために、マネージャーの「職務としての役割や目標」の設定ヒント

プレイングマネージャーとは、実業務を担いつつ、マネージャーとしてチームの管理も兼務している人です。よくある例えが「プロ野球の監督兼選手」で、監督と選手の両方の役割を担っている人です。

多くの営業組織のマネージャーは、プレイングマネージャーとして活躍しています。一部のプレイングマネージャーは、率いるチームの規模を拡大し、企業や事業の成長に貢献しています。ですが、多くのプレイングマネージャーは、企業や事業の成長に貢献できるまでに至っていません。彼らにはどのような違いがあったのでしょうか?

企業、そして、事業を成長させるためにプレイングマネージャーの役割や目標をどのように設定すればよいかについて解説します。

事業を成長させるために、マネージャーの「職務としての役割や目標」の設定ヒント

プレイングマネージャーがチームの成長を阻害している?

ベンチャー企業の営業マネージャーの事例

ベンチャー企業V社の営業マネージャーAさんは、プレイングマネージャーでした。自ら営業担当する地域/お客様があり、同時に他の営業パーソンの管理も担っていました。

Aさんが担当する営業チームの売上目標は10億円でした。Aさんは営業経験が豊富で仕事への意欲が高く、チームの売上目標10億円のうちの6億円を担っていました。残りの4億円は、他のメンバー数人で分担していました。何しろ、Aさんの売上目標額は圧倒的に多い状況でした。

このV社の社長は、営業部の目標達成に向けて、Aさんの仕事ぶりに高い期待をしていました。ですが、この営業部はメンバーの入れ替わりは激しく、最終的にはチームの売上目標を達成できないままで終わってしまいました(このベンチャー企業V社は、その後、存続が危ぶまれる状態にまで低迷しました)。

外資系企業の営業マネージャーの事例

外資系企業W社には6つの営業チームがありました。そのうち1つの営業チームのマネージャーはCさんでした。Cさんはプレイングマネージャーでした。

Cさんのチームの売上目標は7億円でした。この営業チームはCさんを含め3人の営業がいましたが、それぞれがほぼ均等に2~3億円の売上目標を担っていました。Cさんのチームは、数年前と比較すると人数もチームの総売上額も減少していました。今期も目標が達成できていない状態でした。

ビジネスサービス企業の営業マネージャーの事例

ビジネスサービスを展開している企業X社の営業マネージャーは、全員がプレイングマネージャーでした。

Gさんが率いるチームの売上目標は5億円で、Gさんはその半分の2.5億円を担っていました。Hさんの営業チームの売上目標も5億円で、Hさん自身の売上目標は3.5億円でした。GさんもHさんも「自分が頑張ればチームの目標は達成できる!」と考えている責任感が強い人たちでした。ふたりとも営業経験の豊富なベテランでしたので、取引額の一番大きいお客様を担当していました。そのため、チームが目標達成できるかどうかは彼らの頑張り次第でした。

ですが、4年前のチームの売上額を比べると、GさんのチームもHさんのチームも、売上額が増えていませんでした。途中でメンバーの一部が辞めてしまうこともあり、売上額を増やすことができない原因となっていました。

プレイングマネージャーの責任感がチームの成長を阻害していた!

以上に紹介したマネージャー(プレイングマネージャー)たちは、営業経験豊富なベテランたちで、目標達成に向けて責任感が強い人たちでした。彼らは自分の売上目標は達成していましたが、「チームを成長させる(チームの規模を大きくする)」ことはできていませんでした。単年度の売上目標は達成しますが、数年という期間で見るとチームの人数や総売上額を増やせていませんでした。

目標達成に対して強い責任感を持っていることが、逆にチームの成長の妨げとなっていたのです。

企業や事業を成長させるためのマネージャー活用方法とは!

チームを成長に導いているプレイングマネージャーも存在していた!

先ほど紹介したビジネスサービスを展開している企業X社には、GさんとHさんの他に、Iさんもマネージャーでした。Iさんは、GさんやHさんと同様豊富な経験を持つプレイングマネージャーでした。

Iさんのチームの売上目標は8億円でした。そのうち、Iさんの売上目標は6000万円で、他の6名の営業が残りの7.4億円の売上目標を分担していました。数年前、Iさんのチームは、人数4名で、売上は5億円でした。すなわち、Iさんは、この数年でチームを大きく成長させることができていました。

なぜ、Iさんはチームを成長させることができたのでしょうか?

チームを成長に導いているプレイングマネージャーの違いとは?

その理由は、Iさんが自分の売上目標額を少なく設定していたからです。多くのプレイングマネージャーは、チームの売上目標を達成するためには「自分が頑張って、自分が最も大きな売上目標を担えば、チームの売上目標を達成できる!」という考えになっています。なぜならば、取引額の一番大きなお客様を担当し、一番大きな売上目標額を担っているからです。

ほかのプレイングマネージャーと同様、Iさんも目標達成の責任感が強い人でした。ですが、Iさんは、自分が担う売上目標は少ないために、いくら自分ひとりが頑張ってもチームの目標は達成できません。他のメンバーが成果を出せるようにしなければならなかったのです。

Iさんは、他のメンバーの仕事の状況を確認し、対策をとる余裕がありました。その上、プレイングマネージャーのメリットをうまく活用できていました。自らも営業をしているために、「お客様や市場の変化」や「現在の業務の改善すべきポイント」を自らの体験を通して把握していました。そのことから「チームを成長させる」ための様々な問題解決も実施できていたのです。

チームを成長に導くためのプレイングマネージャー制度の設計とは?

以上に説明したことは、「プレイングマネージャーの悪循環と好循環」として、下記のようにまとめることができます。

プレイングマネージャーの悪循環

目標を達成する責任感
 → 自分が頑張れば良い
 → チームの売上目標よりも自分の売上目標を重視
 → 業務の改善する余裕はない
 → 人を育成する余裕はない
 → メンバーが辞めていく
 → チームの規模が縮小

プレイングマネージャーの好循環

目標を達成する責任感
 → チームの売上目標を重視
 → 業務をもっと効率化
 → 人に任せ、人を育成
 → メンバーが定着し、意欲を発揮する
 → チームの規模が拡大

「チームとしての目標達成」と「チームとしての成長」の両方を実現するためには、プレイングマネージャーが担う売上目標比率を少なく抑えておくことが大切です。プレイングマネージャーが担う売上目標はチーム全体の売上目標の10%以下にする必要があります(10%はあくまでもメドで、状況に応じてより最適な割合を見出す必要があります)。そうすることで、自分の目標達成よりもチームの目標達成を重視できるようになり、業務の効率化やチームの育成を行うことができます。

日本の多くの企業のプレイングマネージャーたちは責任感が強い人が多いです。また、通常、十分な営業経験があり、能力の高い人がプレイングマネージャーへ昇進します。その責任感から与えられた目標を達成しようと頑張っています。単年度の目標を達成するだけであれば、プレイングマネージャーが一番大きな金額を担い自分で達成すればよいのです。

ですが、単年度の売上目標の達成だけではなく、「持続的に企業や事業を成長させる」のであれば、プレイングマネージャーの売上目標額は相当注意して設定する必要があります。プレイングマネージャーがチームを成長させることができていないのは、プレイングマネージャー職の「職務としての役割と目標」が問題なのです。

マネジメント専任マネージャー制度にしても、チームが成長するための対策が必要!

外資系企業W社には、先ほど紹介したCさんの他にもDさんとEさんという営業マネージャーがいました。Cさんはプレイングマネージャーですが、DさんとEさんはプレイングマネージャーではなく、マネジメント専任マネージャーでした。

Dさんの営業チームの売上目標は15億円でした。Dさんはマネジメント専任の営業マネージャーのために、Dさん個人の売上目標はありませんでした。Eさんのチームの売上目標は4億円でした。Eさんも個人の売上目標はありませんでした。

DさんとEさんは、両方ともマネジメント専任の営業マネージャーですが、率いるチームの売上目標額はそれぞれ15億円/4億円と大きく違っていました。Dさんは、以前と比べると、メンバーの数もチームの総売上額も増やしていて、チームを成長させることができていました。ですが、Eさんのチームは、以前と比べメンバーの数もチームの総売上額も減少していました。

私たちがW社の営業アセスメント(営業診断)を実施したところ、その差を生み出していた原因は下記の2つでした。

◆ チームの課題を明らかにし、方針として課題解決に挑戦しているか?
◆ 営業の行動/プロセス/KPIの管理し、コーチングしているかどうか?

以上のように、マネジメント専任マネージャーでもチームを成長できるマネージャーとできないマネージャーがいます。その違いの要因は、「マネジメント能力が発揮できているかどうか!」です。プレイングマネージャー自身が担う目標金額を低く抑えるだけでは不十分で、プレイングマネージャーのマネジメント力の強化は必要なのです。

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成長なくして企業の持続はない!

多くの営業マネージャーたちの仕事ぶりを見てきましたが、目標達成に向け責任感が強いマネージャーが多いです。その責任感の強さから目標達成を目指しますが、それが企業や事業の成長に結びついていないケースも多いです。プレイングマネージャーが、自分の売上目標の達成を優先して考えるのではなく、チームの売上目標の達成を優先して考えることが企業やチームの成長への必須条件です。

プレイングマネージャー制度は悪い制度ではありません。ですが、企業と事業を成長に導くためには、その役割と目標を適切に設定することが重要です。

特に重要なことは、プレイングマネージャーが担う売上目標の比率です。「売上額を増やそう!」と営業担当者の人数を増やそうとしても、プレイングマネージャーが大きな売上目標を持っているチームに新人や若手営業を増員しても、チーム全体の売上額は増えません。なぜならば、増員してもメンバーが辞めてしまうからです。その辞めてしまうのは、増員した新人や若手営業とは限りません。長年不満を感じていた他のメンバーが辞めてしまうこともあります。ですので、チームの規模(チーム全体の人数と総売上額)を大きくしたいのであれば、まずすべきはプレイングマネージャーの売上比率の見直しです。以上のように、プレイングマネージャーの役割や目標を見直せば、組織や事業をさらに成長させることは可能です。

また、既に說明したとおり、マネジメント専任マネージャーにしてもチームを成長に導けるわけではありません。プレイングマネージャーの役割や目標を見直した後は、マネジメント能力の強化が必要です。多くの営業マネージャーは責任感が強い人が多いです。責任感が強いからこそ「『チームとして結果を出せる存在』として活躍してほしい」と願っています。

私たちは、多くの営業組織の業務改善/パフォーマンス向上/変化変革を実践しました。事業を成長させるための豊富なノウハウと経験があります。私たちは、「クライアント企業の営業組織が成長する」ために存在しています。多くの企業では、組織の中に潜んでいるその本質的な問題点を明らかにすることができていないことが多いです。私たちが、貴社と力を合わせて、貴社の成長に向け、その解決策の遂行を支援します。

(本ノートは、2019年7月23日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳(てらおたくみ, Takumi Terao)
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