チームを成長させるモチベーション対策と人材育成術 ~ リーダーやマネージャーとして「チームを率いて結果を出す仕事の技術」(7)

未来は自らの手で創る!

組織の中で、「チームを率いて高いパフォーマンスを達成し、大きな報酬や多くの魅力的なチャンスを得ているリーダーやマネージャーたち」を、私たちは「ハイパフォーマー」と呼んでいます。彼らは決まったことをこなすのではなく、「変化を創ること」を仕事と考えています。グローバル化が進み、競争がさらに激しくなる世界で、豊かな未来を創り出す力をもっているのは、彼らのような人材です。

ハイパフォーマーたちは「仕事の技術」を身に着け、チームを率いて実践し、ハイパフォーマンスを達成しています。この「仕事の技術」を学び実践すれば、あなたも彼らのようなハイパフォーマーとなれるでしょう。

チームのメンバーが成長すれば成長するほど、そして、チームのモチベーションが高ければ高いほど、そのチームのパフォーマンスを向上させることができます。すなわち、メンバーのモチベーションを高めることも、人材を育てることも、チームを率いるハイパフォーマーに必須として求められるスキルです。

今回のノートでは、ハイパフォーマーが行っているモチベーション対策と人の育成方法について解説します。

チームを成長させるモチベーション対策と人材育成術

モチベーションとは?

チームのモチベーションを高めるために、あなたはなにをしていますか?

チームのメンバーのモチベーションの高さは、組織に勢いを与え、目標達成の可能性を高めます。多くの企業は様々な方法でメンバーのモチベーションを高めようとしています。ハイパフォーマーを目指すあなたにも、メンバーのモチベーションを高めるスキルは必須条件です。では、どうすればその能力を高めることができるのでしょうか?

まずは、「モチベーション」という言葉の意味を確認することから始めましょう。

「モチベーション」には2つの意味合いがある

「モチベーション」という言葉は、一般的に以下の2つの使われ方をします。

◆ 物事を進める上での意欲ややる気の状態
◆ 物事を進めるうえでの意欲ややる気を引き出す動機づけ

1つ目の「物事を進める上での意欲ややる気の状態」という意味合いとしてのモチベーションは、「今日はモチベーションが上がらないな!」「彼は今日モチベーションが低いな!」というような使われ方です。特定の人の意欲ややる気の状態について表現する使われ方です。

2つ目の「物事を進めるうえでの意欲ややる気を引き出す動機づけ」は、人の意欲ややる気を引き出すための対策や方法として使われるものです。ハイパフォーマーが意識すべきは、この2つ目の「物事を進めるうえでの意欲ややる気を引き出す動機づけ」の意味合いのモチベーションです。

メンバーのモチベーションの高さは、チームのパフォーマンスを最大化するために必要なのですが、多くの企業では、社員のモチベーションに苦労しています。多くのマネージャーは「社員がもっと意欲を発揮すれば…」「メンバーにはもっと高い目標を持ってほしい!」「挑戦する意欲が足りない!」と言っています。「社員のモチベーションが高ければ、もっと業績を向上できる」とわかっているのですが、意欲ややる気を高めることができていないのです。

その原因は、「問題はモチベーションの低い社員たちにある」という考え方にあります。これらのマネージャーたちは、モチベーションという言葉を1つ目の意味合いの「物事を進める上での意欲ややる気の状態」として使っています。「社員たちのモチベーション(物事を進める上での意欲ややる気の状態)が低いことが問題」で、そのための対策は「自分で意欲を発揮するように!」と社員を鼓舞しているだけなのです。

ですが、ハイパフォーマーたちは、「問題はモチベーションの低い社員たちにある」「社員たちのモチベーション(物事を進める上での意欲ややる気の状態)が低いことが問題」を根本的な問題とは考えていません。ハイパフォーマーたちは、「メンバーのモチベーションの向上(=メンバーの意欲ややる気を引き出す『動機づけ』)ができていないことが根本的な原因だ」と考えています。

ハイパフォーマーたちは、「モチベーション」という言葉の意味合いを2つ目の「物事を進めるうえでの意欲ややる気を引き出す動機づけ」として使っています。「社員たちのモチベーションが高まらないのは、組織の仕組み、管理方法、評価方法が『動機づけ』として十分ではない!」という考えなのです。ハイパフォーマーがスキルとして高めるべきことは、このモチベーションを向上する仕組み、管理、評価の体系を構築できるスキルです。この『動機づけ』をいう意味合いのモチベーションについて学び、実践することがハイパフォーマーになる必須条件です。

モチベーション理論の基礎

現在では、モチベーションに関する研究もかなり進み、様々な論文が発表されています。それら多くのモチベーション研究の原点・出発点となる4つの基礎的な「モチベーション理論」があります。この4つのモチベーション理論は、ハイパフォーマーになるために必要な「メンバーの意欲ややる気を引き出す『動機づけ』」を実践する上での重要なヒントとなります。まずは、この4つのモチベーション理論について確認しましょう。

ホーソン実験

ハーバード大学のメーヨー氏とレスリスバーグ氏らは、米国のホーソン工場で、労働者の作業効率の向上を目指すための調査を行いました。

実験1:照明実験

最初の実験は、照明による実験でした。工場の照明と作業効率の関係を調べる実験で、照明を明るくしたり暗くしたりしました。その結果は、明るくしても暗くしても作業効率は上がったのです。

実験2:組立実験

次は、組立作業をしている労働者の賃金・休憩時間・部屋の温度などの条件を変えて、それが作業効率の変化とどのように関係があるかを調査しました。結果は、条件を変えると作業効率は高まったのですが、その後、条件を戻しても作業効率は高まったままでした。

実験3:面談調査

多くの労働者と面談をおこない、作業効率に影響を与える要因の聞き取り調査をしました。その結果、作業効率は、労働環境よりも労働者たちの過去の経歴や職場での人間関係にあることがわかりました。

実験4:作業実験

最後の実験は、様々な職種の人が共同作業を行う実験でした。この実験の結果、作業量は、個人の能力や意識によって制限されるが、作業品質は、個人の能力よりも監督者と労働者の人間関係や評価に影響があることがわかりました。

ホーソン実験から「労働者たちの生産性に影響をおよぼすのは、労働条件や公式な組織構造よりも、非公式な友好関係や周りからの『注目されているという意識』」ということが判明したのです。このことからわかることは、周囲から注目されることは「動機づけ」になるのです。

マクレガーのX理論Y理論

心理学者および経済学者であるダクラス・マクレガー氏は、その著書「企業の人間的側面(The Human Side of Enterprise)」でX理論Y理論を発表しました。

X理論

人というのは、そもそも仕事をするのが嫌いなので、組織の目標達成に向かって強制的に従わせ、管理し、命令する必要がある。その上、ほとんどの人間は自分の責任を回避することができるため、この方法で処遇されるのを好んでいる。

Y理論

個人の目標と組織の目標を一致して考えることができる人間は、本質的に自分の仕事に関心をもっており、自律も望んでいる。また、しかるべき責任を担おうとする。そして、業務上の問題を独創的な方法で解決する能力も持っている。

マクレガー氏は、最終的に「X理論は古典的な組織マネジメントにおいて有効であるが、マネージャーはY理論に従うべきである」と結論づけています。マクレガー氏の結論はそのようなものですが、メンバーのパフォーマンスを最大化するための方法は、X理論に基づく方法とY理論に基づく方法があるため、ハイパフォーマーは、メンバーの動機づけを行うために、自らの仕事環境を判断し、この2つから最適な方法を選択する能力が必要となります。

マズローの欲求5段階説

マクレガー氏と同じ時期に活躍したアブラハム・マズロー氏は、「人間には、5段階の欲求段階がある」と説明しました。

生理的欲求

食べる、飲む、寝るなど、生きようとする生物としての基本的欲求

安全欲求

危険から身を守り、安全な環境を求める欲求

社会的欲求

集団に属し、かつ、良い人間関係でいたいという欲求

尊厳欲求

他人から認められたい、あるいは、責任を持ちたいという欲求

自己実現欲求

自らの可能性を最大限に追求し、自己にとって理想的な状態の実現を目指そうとする欲求

マズロー氏によると、ある段階の欲求が満たされると、一段階上の欲求が心理的に現れ、それが動機づけとなります。例えば「生理的欲求が満たされると安全欲求を求めるようになる」ということです。

このマズロー氏の欲求5段階説とマクレガー氏のX理論Y理論には関連性があります。マズロー氏の欲求5段階説の下の段階の欲求ではX理論のほうが効果的となり、上の段階においてはY理論が効果的となります。

ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)

給料が上がるとあなたのモチベーションが高まるのでしょうか?

心理学者および経済学者でもあるフレデリック・ハーズバーグ氏は、「動機づけ」に影響を及ぼす要因(= 動機付け理論)と「不満解消」に影響を及ぼす要因(= 衛生理論)はちがう、という二要因理論を発表しました。

実は「給料が上がる」ということは意欲を高める要因ではなく、不満を解消する要因です。全員一律で給料上がる場面において、あなたの給料が上がったとしても「よし、もっと頑張ろう!」という意欲の向上にはなりません。もし、給料が下がったのであれば、あなたは相当不満に感じると思います。ですから「給料が上がる」というのは、人の意欲を引き出すための要因というよりは、人が不満を感じないようにする要因なのです。

ですが、あなたの仕事ぶりが認められて給料が上がった場合、あなたは「よし、もっと頑張ろう!」と感じると思います。これは給料が上がったから「よし、もっと頑張ろう!」と感じたのではなく、あなたの仕事ぶりが評価されたからです。この「あなたの仕事ぶりが評価される」というのが、意欲ややる気を引き出すための「動機づけ要因」です。

メンバーの動機づけとなる「動機づけの要因」には、おもに下記のような要因があります。
◆ 達成・承認・責任・昇進・成長、など

メンバーの不満解消となる「不満解消の要因」は、主に下記のような要因です。
◆ 方針と管理・監督・人間関係・給与、など

ハーズバーグの二要因理論からわかることは、メンバーの「動機づけ」に影響を及ぼす要因と「不満解消」に影響を及ぼす要因とは違う、ということなのです。

パフォーマンスを最大化するための4つのモチベーション理論の活用方法

以上に解説した4つの基礎的なモチベーション理論(「ホーソン実験」「マクレガーのX理論Y理論」「マズローの欲求5段階説」「ハーズバーグの二要因理論」)を、私たちなりに整理すると、図のように表すことができます。

作業労働とは「決まった作業が多く、作業量や作業時間が成果に大きく影響する業務」です。そのような業務では、管理や監督などのマネージャーシップがパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。カギを握るのは、「業務を正しく行わせる」や「不満を解消する」です。そのためには、X理論、マズローの欲求5段階説の下の段階の欲求、衛生理論に関わるモチベーション要因を考慮して人材活用を行うと効果的です。

知的労働とは「広範な問題解決が必要とされる極めて不確実性が高い業務で、知識や知恵などの応用力が成果に大きく影響する業務」です。この業務にはリーダー(リーダーシップ)がパフォーマンスに影響を及ぼします。カギを握るのは「方向性を示し、目的・目標への動機づけを行う」です。そのためには、Y理論、マズローの欲求5段階説の上の段階の欲求、動機づけに関わるモチベーション要因を考慮して人材活用を行うと効果的です。

ハイパフォーマーは、期待されている成果や仕事の内容を検討し、どちらを実行することが効果的かを的確に判断できる能力が必要なのです。

モチベーションの具体的対策

ハイパフォーマーに求められているのは「動機づけの能力」です。「メンバーが目標に向かって意欲を高める」ことに影響できる能力です。この「動機づけ」には、以下の3つを行う必要があります。

1. 組織を整える
2. インセンティブを設計する
3. リーダーとしてのあり方

1. 組織を整える

メンバーのモチベーションを高めるため(動機づけ)に、ハイパフォーマーがまず実施すべきことは「組織を整える」ことです。

「組織を整える」については、「チームで結果を出すためのマネジメントスキル「仕事の仕組み化」 ~ リーダーやマネージャーとして「チームを率いて結果を出す仕事の技術」(3)」で解説しました。具体的な実施方法はこちらを御覧ください。そこでは「組織を整える(=仕事の仕組み化)」を行なうことが、チームの成果を最大化する方法の1つだと紹介しました。また、「組織を整える(=仕事の仕組み化)」のメリットには、下記の4つがあることを解説しました。

仕事の生産性が上がる

◆ 無駄な作業がなくなる
◆ 仕事が早くなる
◆ 少ない人数でできるようになる

仕事の質が保てる

◆ 手順がわかりやすくなる
◆ 仕事に求められる品質の基準がわかるようになる

人の育成が早くなる

◆ 誰にでもできるようになる
◆ 新入社員が早く育つ
◆ 効果的に教えることができる
◆ 困った時の補充がしやすくなる

意欲が高まる

◆ 方針や理念がわかりやすくなる
◆ 目的や目標が明確になる
◆ 評価の基準が明らかになり納得感が高まる

「組織を整える(=仕事の仕組み化)」4つのメリットのうちの4番目は、以上のように「意欲が高まる」、すなわち、モチベーション対策(意欲を高める動機づけ)です。ですが、多くの企業でよく見かけるモチベーション対策は、組織や業務を整えることではなく、「意欲を発揮しろ!」と部下を鼓舞しているだけのことが多いです。または、組織や業務を整えることなく、マネージャーへの教育を行っていることもあります。

「組織を整える」ことをせず、マネージャーがメンバーへ言葉で鼓舞しようとしても、マネージャーへの教育を行っても、メンバーのモチベーションは高まりません。逆に、メンバーのモチベーションを下げてしまうほうが多いです。まず「組織を整える(=仕事の仕組み化)」が重要で、先ほど紹介した衛生理論である「不満をできるかぎり少なくする」準備をし、その上で、以下に続くモチベーション対策を行います。

2. インセンティブを設計する

メンバーのモチベーションを高めるため(動機づけ)に、ハイパフォーマーが次に実施すべきことは「インセンティブを設計する」ことです。生産性を高めるためには、メンバーの「働くことへのモチベーション」を高める必要があります。そのために、マネージャーは「働くことへのモチベーションを高める」インセンティブを検討する必要があります。

インセンティブ(incentive)と言う言葉の意味ですが、Oxford Dictionaryでは、下記のように説明していました。

something that encourages you to do something(あなたが何か行動すること奨励する要因)

メンバーが「自分のモチベーションを高める」すなわち「働くことへのモチベーションを持つ」ことにつながる欲求には下記のものがあります。

◆ 自己実現欲求
◆ 承認欲求(認められたい)
◆ 金銭的欲求 など

マネジメントチームは、その欲求に関連するインセンティブを用意することが大切です。組織が用意すべき代表的なインセンティブとは下記です。

◆ 金銭的報酬
◆ 価値観の共有
◆ 機会
◆ 評価 など

このうち、よく行われているインセンティブは「金銭的なインセンティブ」です。金銭的なインセンティブは動機づけとして効果がある強力な方法の1つです。強力な方法なのですが、通常金銭的なインセンティブは、会社の人事制度・評価制度・報酬制度によって決まりますから、マネージャーやハイパフォーマーが勝手にインセンティブを設定することはできません。

実は、インセンティブは金銭的なものだけとは限りません。例えば、あなたが率いる組織やチームの年初の戦略を策定する作業に一部のメンバーを参加させることもインセンティブの1つです。また、下記のようなことも効果のあるインセンティブの方法となります。

◆ メンバーの成果を評価しそれを全員の前で称賛すること
◆ メンバーの得意分野に対して他のメンバーへ教育をする役割の機会を与えること
◆ メンバーの昇進を上層部へ推薦すること

チームで高い成果を上げるハイパフォーマーは、「部下の意欲の状態」を常に観察し、メンバーの「動機づけ」となるインセンティブを考慮して年間計画を立案し、常日頃、メンバーとコミュニケーションを取っています。

3. リーダーとしてのあり方

メンバーのモチベーションを高めるため(動機づけ)に、ハイパフォーマーが最後に実行すべきことは「リーダーとしてのあり方」です。

「リーダーとしてのあり方」については、「「優れたリーダーへ成長するためのステップ」と「結果を出すためのリーダーシップの基礎的特性」 ~ リーダーやマネージャーとして「チームを率いて結果を出す仕事の技術」(2)」で解説しています。具体的な実施方法はこちらを参考下さい。

その中で、「リーダーシップの基礎的特性の1つである『影響力』」について説明しました。「影響力」とは、「相手に働きかけ、考えや行動を変える力」です。常日頃から影響力を高めておく必要があります。

上記のノートの中で解説していることの他に、3つほど「リーダーとしてのあり方」に関わることがあります。実際に、ハイパフォーマーたちには、下記のような特徴がありました。下記のことも目標達成の意欲を引き出す動機づけ要因となります。

特徴1:ピグマリオン効果

ピグマリオン効果とは、「他者から期待されると、成績が向上する現象」のことです。学校教育で、「この子供たちはできる子供たちだ!」と教えられた教師が授業をすると、そのクラスの成績が上がりました。逆に、「この子供たちはできない子供たちだ!」と教えられた教師が授業を行うと、成績が下がりました。

人は、期待された通りの成果を出す傾向があります。上司が「期待している」と部下を扱い、部下が「期待されていると感じること」が、モチベーションの向上につながるのです。

特徴2:オープンコミュニケーション

ハイパフォーマーたちは、仕事に関して、社員たちと膝を交えて話し合い、深い信頼を築こうとしていました。なぜならば、彼らがフォロワーとして協力してくれないと高いパフォーマンスを実現できないからです。リーダーたちは、真実をありのままに伝え、信頼を勝ち取っていました。信頼や正当性を得ているからこそ、目標達成や重要な課題の解決に向けて、社員たちの協力や献身を引き出すことができているのです。

特徴3:目標の達成を経験させる

もし、私たちが「最も強力なモチベーション対策はなにか?」と聞かれたら、私たちの答えは決まっています。それは、「目標達成を経験させること」です。

私たちが様々な企業で実際に体験したことなのですが、優秀なリーダーたちは、社員たちへ様々な支援を行い、多少強引であろうとも社員たちに目標を達成させていました。そうすると、社員たちの目の色と意識が変わるのです。多くの人は、「モチベーションが高まれば、目標を達成できる」と考えていますが、私たちの実際の経験上では、「結果を達成したから、モチベーションが高まっていた」が正しい考え方だと自信を持っています。

この「目標達成を経験させる」というのは、とても強力な動機付け要因です。困難な状況の中での目標達成の経験は、人の意欲を確実に変えるのです。

効果的な人材育成の基本概念

さて、チームの生産性向上のためのモチベーション(動機づけ)について考えてきました。ここからは、チームの生産性を向上するための「人材の育成方法」について考えましょう。

メンバーの成長のために、なにを行っているか?

チームメンバーの成長のために、あなたは日頃どのようなことをしていますか?

多くの企業のマネージャーたちにこの質問をしましたら、その回答は「できるだけ会話をする」「プライデートでお酒や食事を一緒にする」「なるべく褒める」「叱る」といったものでした。メンバーひとりひとりに対する育成計画を立てて、計画的にメンバーの育成を行っているマネージャーはほとんどいませんでした。ハイパフォーマーであるマネージャーは、メンバーが成果を出せるように計画的・体系的に育成できなければなりません。

人材育成のモデルとは?

「叱れば育つか?」「褒めれば育つか?」については、すでに「意思決定と問題解決の技術を駆使して成長・成功の可能性を最大化! ~ リーダーやマネージャーとして「チームを率いて結果を出す仕事の技術」(6)」で解説しました。その中では、「叱る!」「褒める!」両方とも「育つ!」ということと直接的な因果関係(原因と結果の関係)はない、と解説しました。

メンバーを育てるために重要なポイントは、まず、その人の実力を特定することです。そのために、パフォーマンスに影響を及ぼす要因を特定し、その要因をデータ化します。そのデータの平均値がその人の実力です。その実力(= 平均値)を特定し、その実力に対してストレッチな目標を設定します。これが「効果的な人材育成の基本概念」なのです。

ですが、多くのマネージャーは、それぞれの実力は違うことを考慮することなく、全員一律の目標を課す傾向があります。例えば「全員、10%向上!」といったものです。ご存知のとおり、人それぞれ実力は違います。その実力を中心にして考えると、その目標達成は無理な人もいます。逆に、簡単に達成できる能力の高い人もいます。結局、能力の低い人は最初から目標達成を諦めます。また、能力の高い人は更に能力を高めることをしないのです。これでは、個々のメンバーを成長させることなどできません。

それに対して、人を育成・成長させることができるハイパフォーマーなマネージャーは、この「効果的な人材育成の基本概念」に基づいて、メンバーそれぞれとストレッチな目標を合意します。そして、その合意した目標を達成するために、メンバーと定期的なコミュニケーションを取り、そのストレッチな目標達成の支援するのです。その支援の過程において時折、叱ったり褒めたりすることを手段の1つとして行っています。

3つのStage別の人材育成方法

メンバーの目標達成の支援は、全員に対して同じやり方をしてもうまくいきません。メンバーのスキルや能力などの状況に合わせた支援をすることが大切です。一般的にメンバーのスキルや能力は、以下の3つのStageに分類することができます。このStageに合わせた人材育成方法を行うことが必要です。

Stage1. メンバーは、求められている基本的な職務・業務がまだできていない(概ね職務経歴1~3年に相当)

Stage2. メンバーは、求められている基本的な職務・業務ができるようになったが、まだ所々改善する余地がある (概ね職務経歴4~10年に相当)

Stage3. メンバーは、求められている基本的な職務・業務は十分担え、かつ、応用力も発揮できる(概ね職務経歴10年以上に相当)

(職務経歴年数を記入しましたが、「イメージをしやすくするため」と考えて下さい。職務経歴5年目でもStage3相当まで成長する人もいますし、職務経歴13年目でもStage2の人もいます。)

Stage1にはティーチングを通して育成する

Stage1のメンバーは、求められている基本的な職務・業務ができている状態ではありません。このメンバーには、まず職務・業務を遂行できるように育てることが必要となります。そのために、主に「ティーチング(Teaching)」を行うことで育成します。

ティーチングの目標設定

まずは、求められている基本的な職務・業務ができるようになることが目標です。会社として定義されている「職務の達成目標」「適正要件」「評価基準」を達成目標とし、かつ、その人にとってストレッチな目標を合意します。

ティーチングの方法

そのストレッチな目標に対して「どうしたらそれが達成できるか?」その具体的な方法をティーチングします。ティーチングでは、マネージャーが下記について明らかにし、具体的に指示します。

◆ 目標達成に向けた問題点
◆ 具体的に実行すべきこと
◆ 具体的な進め方(なにを、いつ、だれとだれが、どうやって、どのような手順で)
◆ 具体的な報告の方法や時期

Stage2にはコーチングを通して育成する

Stage2のメンバーは、指導されなくても職務・業務を行うことができる状態です。このメンバーには、より高いパフォーマンスに挑戦できるような応用力を強化することが必要となります。そのために、主に「コーチング(Coaching)」を行うことで育成します。

コーチングの目標設定

その人の実力を考慮した上でストレッチな目標を合意します。その際、「職務の達成目標」「適正要件」「評価基準」に関係する目標において、実力よりも高いストレッチな数値目標の達成を目指します。

コーチングの方法

そのストレッチな目標に対して、「どうしたらそれが達成できるか?」をコーチングします。コーチングをする際は、マネージャーは下記を明確に指示する必要があります。

◆ 目標達成に向けた問題点
◆ 具体的な報告の方法や時期

メンバーの応用力を高めることがStage2の育成目標です。メンバーが自ら考えるように仕向ける必要があります。下記について、自ら考え決めさせるようにします。ただし、相手のその考えが不十分であれば、相手の決定に対して助言を与え、必要に応じて実施方法を指示します。

◆ 具体的に実行すべきこと
◆ 具体的な進め方(なにを、いつ、だれとだれが、どうやって、どのような手順で)

コーチングは、意欲が低い人にも有効

コーチングは、意欲が乏しい人、意欲が低下ぎみな人にも有効な方法です。例えば、あなたのチームのメンバーが、自信を失っている、伸びが見られなくなった、進歩が見られなくなった、仕事が雑になっている、と感じたときの最適な対応方法がコーチングです。

このような人に対しては、相手の話をよく聞きます。相手が心配していること/感じていること/考えていることをよく聞きます。そして、相手への期待や相手の問題点を具体的に指摘し、今後の方向性や解決方法を一緒に考えます。このようなコーチングを行うことが、相手の意欲に影響を与えることができるのです。

やはり、コーチングは、チームを率いて結果をだすリーダーやマネージャーにとって必須となる技術なのです。

Stage3には権限の移譲によりパフォーマンスを最大化する

Stage3のメンバーは、十分職務・業務を遂行でき、かつ、応用力が発揮できる状態です。このメンバーには個人の達成目標だけではなく、チームとしての目標達成にもチャレンジさせ、さらなる成長機会を与えます。そのため、主に「権限の移譲(Delegating、Empowermentという言葉が使われることもある)」を行うことで育成します。

権限の移譲の目標設定

個人の目標だけではなく、組織やチームとしてのストレッチな目標の達成を合意します。

権限の移譲の方法

権限移譲を行うときは、合意をした目標を達成するための仕事の進め方についてはメンバーにまかせます。そのため、事前に下記の内容を含んだ文章での「権限移譲の合意」を行います。

【目標】 何をいつまでに達成するかを合意する。

【ガイドライン】 結果を出すにあたり、守らなければならないルールを明確にする(機密/社外の活用の制限/変えてはいけないプロセスやルール、など)。

【リソース】 活用できる人的、金銭的、技術的、組織的な資源の範囲を明確にする。

【報告】 途中報告・最終報告の方法を明確にする。

【インセンティブ】 目標を達成した場合・達成しなかった場合を含めたインセンティブを明らかにする。

このような合意をするからこそ、実力のある人の能力とモチベーションを最大限に引き出し、その相手に対して、目標達成に向けて進捗の確認や支援を計画的に行うことができます。

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文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳 (てらおたくみ, Takumi Terao)
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