問題解決のための効果的なKPI設定のテクニック ~ 組織の成長と目標達成に向けて、社員たちが自主的に組織課題を実行する!

どうすれば、社員たちが、組織が直面する課題や問題を率先して解決するようになるのでしょうか?

社員たちが、自主的に組織課題を解決するようになれば、組織としての生産性は向上し、確実に事業を成長させることができます。私たちは、クライアント企業内に、そのような組織体制や文化を構築する支援をしています。その支援の中で、「社員たちが最後までやり遂げ、結果を出すための必須要素」について解説しています。

その1つが「先行指標(KPI)の設定」です。というのも、社員たちが組織課題や問題解決を最後までやり遂げることができない原因の1つが、「先行指標(KPI)を設定することなく実行していること」だからです。

このノートでは、社員たちが、組織が直面する課題や問題を解決するために必要な「先行指標(KPI)の設定のテクニック」について解説します。

組織の成長と目標達成に向けて、社員たちが自主的に組織課題を実行する!

数値目標の必要性! 目標への達成度がわからなくなった組織はどうなったのか?

ある企業の営業組織は、基幹システムを新しいシステムへと変更する際にトラブルが発生し、約3ヶ月もの間、「売上目標額とその達成度」を確認できなくなりました。3ヶ月後に確認できるようになったのですが、その3ヶ月間の売上の落ち込みはひどいものでした。

このように、「数値目標とその達成度が確認できるかどうか」は、仕事で結果を出すための必須条件です。当たり前のことですが、数値として目標を設定しているから、その目標に対する達成度がわかります。その達成度が芳しくないときには、その対策を検討することができます。また、数値として目標を設定することは、社員たちの意欲を引き出す効果もあります。

すなわち、数値目標を設定することは、以下のようなメリットがあります。

1. 進捗/達成度が分かりやすい
2. 行動計画や対策がしやすい
3. 結果を評価しやすい
4. 社員たちが意欲的になる

数値目標は達成目標と先行指標の2つの構造が鍵となる

企業の中で設定されている数値目標には、一般的に「達成目標」と「先行指標」の2つが存在しています。

達成目標は「KGI(Key Goal Indicator)」とも言われます。企業・事業という単位で達成すべき到達目標(Goal)を測定可能な数値で表したものです。先行指標は「KPI(Key Performance Indicator)」とも言われます。KGIの達成の可否を占う先行的な数値で表したものです。
達成目標(KGI、以後KGIと表現します)と先行指標(KPI、以後KPIと表現します)は、下の図のような関係になっています。

図のように、KGIからKPIを導くためには、「重点課題の特定」が必須となります。重点課題とは、「KGIを確実に達成するための相対的に重要性の高い課題」です。すなわち、重点課題を特定することで、KPIを設定できるようになります。

KPIをうまく設定できないと、様々な問題を引き起こす!

通常、達成目標となるKGIは、会社の上層部が決定します。例えば、売上/コスト削減/利益向上/お客様満足度向上などに関わる数値目標です。上層部はKGIを決めたあと、その先行きを占うための重点課題とKPIを設定します。

メンバーたちは、上層部のKPIの達成を目指します。すなわち、上層部のKPIが、メンバーのKGIとなります。さらに、そのメンバーのKGIに対して、重点課題とKPIを設定します。一般的には、このように「企業としてのKGIとKPI」が「事業部としてのKGIとKPI」、そして「部としてのKGIとKPI」「課としてのKGIとKPI」とブレイクダウンして数値目標が設定されます。

ですが、このKPIをうまく設定することができず、その結果、KGIが達成できていない組織やチームを見かけます。「うまく設定できない」とは、下記のような状態のことです。

◆ 思いつきでKPIを設定していた(分析して導き出していない)
◆ KGIとKPIの関連性が悪い
◆ KPIが高すぎる
◆ KPIのはずなのに数値になっていない、数値として測定できない
◆ 自分たちのKPIではなく、他の人のKPIとなっている
◆ そのKPIを設定した理由が明らかになっていない
◆ KPIが多すぎる

KGIの達成の先行きを占うKPIが以上のような状態ですと、KGIの達成の不確実性(リスク)が高まり、達成が困難になります。不確実性(リスク)を少なくするために、「KGIの達成に貢献するKPIを設定する」かつ「KGIが達成できるかどうかを事前に占うことができるKPIを設定する」必要があるのです。

効果的な重点課題・KPIを設定するテクニック

KPIを設定するためには、重点課題(KGIを確実に達成するための相対的に重要性の高い課題)をセットで考えることが鍵です。重点課題とKPIの設定は知恵を必要とする作業です。重点課題の特定とその重点課題のKPIの設定には様々な方法があります。その中から最も効果的な方法で、KGIを確実に達成するための重点課題とKPIを設定します。

私たちは、その重点課題とKPIを特定する以下の5つのテクニックを紹介しています。
1. 達成目標に対して方程式で分析
2. 達成目標(KGI)に対して数値のブレイクダウン
3. プロセスで考える
4. ブレインストーミングでKPIを設定する
5. 達成目標(KGI)に対して集めるべき情報で検討

テクニック1. 達成目標に対して方程式で分析

重点課題とKPIを特定するテクニックの1つ目は、KGIに対して方程式として検討することです。

下の図のように、KGIを構成している各要素を方程式のように表現できれば、その方程式の各項目が重点課題とKPIの候補となります。例えば、自己資本利益率を向上するためには、売上高利益率/財務レバレッジ/総資産回転率のいずれかを向上する必要があります。経済が伸びているのであれば、財務レバレッジを向上するのが最も効果的な方法でしょうし、市場が低迷しているのであれば、売上高利益率の改善が選ばれるでしょう。

このように、KGIによっては、そのKGIに利用できる方程式がすでにわかっています。その方程式の構成要素が重点課題となり、それによって重点課題のKPIを決定することができます。

テクニック2. 達成目標(KGI)に対して数値のブレイクダウン

重点課題とKPIを特定する2つ目のテクニックは、「テクニック1. 達成目標に対して方程式で分析」の発展形ですが、KGIに対してブレイクダウンしていく方法です。

この方法は、財務的なKGIに対して、重点課題を特定する際に効果的な方法です。図のように、KGIの構成要因をブレイクダウン(詳細化)することで重点課題とKPIを特定します。

テクニック3. プロセスで考える

重点課題とKPIを特定する3つ目のテクニックは、業務をプロセスで考える方法です。

通常、仕事には「業務プロセス(仕事の手順)」があり、その結果として「成果」が生み出されます。すなわち、業務は以下の図のようにプロセスで表現できます。下図は、介護用品をレンタルする業務のプロセスですが、このように図示することで、KGIにもっとも影響を及ぼしそうなステップを重点課題とKPIとして見出すことができます。

テクニック4. ブレインストーミングでKPIを設定する

重点課題とKPIを特定する4つ目のテクニックは、ブレインストーミングです。

KGIが「従業員満足度の向上」のような場合には、「方程式」「数値のブレイクダウン」「プロセス」などの方法が活用しづらいこともあります。その際は、チームでブレインストーミングを行います。たくさんの意見を出した後、全員でKGIに影響を及ぼす重点課題とKPIを選定します。

テクニック5. 達成目標(KGI)に対して集めるべき情報で検討

重点課題とKPIを特定する5つ目のテクニックは、「テクニック4. ブレインストーミング」の応用例ですが、方針を作成するときに必要となる情報をあつめ、その情報から重点課題を見出す方法です。

年間方針の作成には、集めるべき情報が決まっています。私たちは、その集めるべき情報として、「下図の項目で情報収集をしてください」と伝えています。その項目で情報収集した後、課題と思われることをリストし、その中からKGIにもっとも重要な重点課題とKPIを選び出すというものです。

更に効果的な重点課題・KPIへと検討するために

より効果の高い重点課題とKPIを見出すためには、紹介した5つのテクニックのどれか1つを実行すればよいということではありません。様々な観点で多角的に検討することが必要です。ですので、5つのテクニックのいくつかを組み合わせて行います。

また、そのKGIに関して豊富な経験があり、深く研究をしている専門家(プロフェッショナル)の意見を仰ぎ、「方程式」「数値のブレイクダウン」「プロセス」「集めるべき情報項目」とその注意点を教えてもらうことも重要です。社内に専門家がいればその人に伺えばよいですが、社内にいなければ社外の専門家に助言を求めます。専門家の意見と助言を得ることで、目標達成の可能性を最大化する重点課題とKPIを設定できるようになります。目的は「確実にKGIを達成すること」です。そのために、専門家の助言を得ることは、必須として行うべきことです。

その課題・KPIで大丈夫か?/課題・KPIの検証

いくつかの重点課題とKPIを見出したら、どのKPIが最もKGIの達成に役立つかを検証します。その検証は、下記の3つの観点で、複数の重点課題とKPIを相対的に比較します。

◆ 貢献度による相対的順位(KGIの達成への相対的な貢献度の大きさ)
◆ 難易度による相対的順位(重点課題とKPIを達成するための相対的なチャレンジ度合いや難易度)
◆ 不確実性による相対的順位(重点課題とKPIの達成の不確実性の大きさ。どのように実施すればよいかわからない、どのような結果になるかわからない、など)

複数の重点課題とKPIを図にように検討し、チームで重点課題の優先順位を決定します。チームで「今回は、難易度が少ないが貢献度の大きい課題3を優先順位1番にしよう。そして、課題2を優先順位2番目にして挑戦しよう」のように、話し合って優先順位を決定します。

KPIを達成するための注意点

KPIは、KGIの達成を占う先行指標です。そのKPIを達成した結果として、KGIを達成できるのです。KGIを確実に達成するためには、KPIを決める最終段階でいくつかの注意点があります。

それぞれが独立した課題・KPIか?

KGIを確実に達成するためには、それぞれのKPIが独立したものでなくてはなりません。例えば、重点課題1のKPIの数値が向上したら自然と重点課題2のKPIが上昇することがあります。この場合、重点課題1と重点課題2は、相関性のある同じ課題です。相関性のある課題を別々の課題としていただけなのです。

KGIを確実に達成するためには1つの課題だけでは不十分で、通常は複数の課題を実行する必要があります。そのためには、KPIを設定する際に、それぞれが独立したKPIを設定する必要があります。

課題・KPIがトレードオフになっていないか?

「それぞれの課題やKPIがトレードオフになっていないか」にも注意すべきです。トレードオフとは、あるKPIの数値が良くなると、他のKPIの数値が悪くなる、というものです。

ある営業組織で発生していたケースなのですが、「既存顧客の満足度を向上する」という重点課題を実施した結果、「新規顧客の受注率が想定以上に悪化した」ということが発生しました。これでは、KGIを十分達成する事はできません。それぞれのKPIがトレードオフの関係になっていないかを検証した上で、KPIを最終決定する必要があります。

課題・KPIは最大3つ以内にする!

「KPIが多ければ多いほどKGI達成の可能性が高まる」と思いがちですが、それは間違いです。フランクリン・コヴィー・ジャパン社の書籍『実行の4つの規律』では下記のように説明しています。

◆ 目標を10~20も設定した組織は、ひとつも達成できていなかった。
◆ 逆に、目標を2~3と絞り込んだ組織では、全て達成していた。

以上のように、重点課題とKPIは3つ以内に絞ることが大切です。

行動計画は、自らできることを計画する!

KPIを設定したら、次はそのKPIを達成するための行動計画を立案します。その行動計画は「チームが主体的に実行すること」を中心で検討します。

さきほど、「課題・KPIの検証」で「不確実性(リスク)という観点でいくつかの課題を相対的に検証する」と解説しました。もし、KPI達成のための行動計画が「自分たちがすべきこと」ではなく、「他の会社/他の部署/他の人が行うべきこと」の場合には、そのKPI達成の可否は、他の会社/他の部署/他の人に大きく依存してしまいます。彼らがやってくれなければ、KPIは達成できないのです。そのような状態とならないために、「他の会社/他部署任せ/他の人だけに任せる」というような行動計画ではなく、「自分たちがすべきこと」を行動計画にすることが大切です。

新規事業など新しい組織課題のKPIは簡単ではない!

あなたの重点課題とKPIが新規事業の開拓や新規顧客開拓に関わる場合には注意が必要です。というのは、不確実性(リスク)があまりにも高いからです。新規事業や新規顧客開拓は、数値としての効果がなかなか現れません。設定したKPIがまったく変化しないのです。ですが、時間やコストばかりがどんどん費やされます。数値的な効果として現れませんから、自分たちがやっていることが正しいかどうかがわからず、自信を失いはじめ、どんどん不安になっていきます。最終的にはKPI達成の意欲を失ってしまいます。

このように、新規事業の立ち上げや新規顧客開拓は、KPIが動かないジレンマに直面します。KPIの達成を諦めないようにするためにも、その際にはKPIを更に詳細化した行動計画にします。それによって、少しでも「進捗している!」と感じるようにすることが大切です。

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組織の目標達成に役立つKPIの設定しよう!

多くの企業が「上層部が策定した経営方針や中長期計画が思うように進まない」「社員たちの主体的な改善活動が乏しい」「仕事に追われ、場当たり的な一時しのぎばかりを行う」という不満を抱えています。私たちは、このような悩みを抱えている企業へ、「目標達成や企業成長に役立つ行動」が定常的に行われる環境や文化を構築する支援を行っています。

その支援を行っている時によく見られる問題が、「社員たちが、達成目標(KGI)に向けた重点課題と先行指標(KPI)を設定することができない」ことです。まずは、組織成長にむけた計画を立案できる能力を強化する必要があります。ぜひ、社員たちが重点課題とKPIを設定できるようにするために活用ください。

また、「社員たちの組織成長への行動が不足している!」と感じているならば、ぜひお問い合わせください。私たちが、あなたの会社内に、「チームによる自主的な組織問題解決」の行動が定常的に実施されている環境・文化を構築するお手伝いをします。

(本ノートは、2017年10月11日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳(てらおたくみ, Takumi Terao)
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