そのうちの1つは「企業のマネージャーの目標設定力/戦略策定力が危機的な状況だ!」ということです。チームとしての目標を達成できるかどうかは、マネージャーの目標設定や策定した戦略しだいです。ですが、効果的な目標設定や戦略策定ができていないマネージャーが多いのです。
彼らの目標設定や戦略策定には、どのような問題があったのでしょうか?
「どうすれば部下がついてくる目標設定や戦略策定ができるか?」そのための思考のコツについて解説します。
マネージャーに必要な「年間目標設定/戦略策定の考え方のコツ」とは!
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実際にマネージャーたちが行っていた目標設定や戦略策定の問題とは?
シャアが低いから目標が達成できない?
A社の営業マネージャーが、来年度の営業部方針を作成していました。その営業部方針の重点施策には「シェア向上を行い、売上目標を達成する」と書かれていました。重点施策とは、「目標達成のために、優先度高く実行すべき実施項目」のことです。この「シェア向上を行い、売上目標を達成する」という重点施策は適切なものではないために、それをどのように導き出したのか、営業マネージャーに伺いました。その時の会話の流れは以下のようなものでした。【私】 重点施策として「シェア向上を行い、売上目標を達成する」と書かれていますが、現在、何のシェアが低いのでしょうか、どの程度低いのですか?
【営業マネージャー】 以前と比べ、シェアが低くなっていると思うんですよ。ですから、営業がもっと訪問件数を増やせば売れるはずなんですよ!
【私】 そうですか、では、前期の「シェア」はどのように測っていて、どのくらいの数値なのですか?
【営業マネージャー】 それはよくわかりません。でも、うちの会社のお客様を考えると、もっと売れて良いはずなんです。いくつかのお客様では売上が減っていますし。
この会話の後、A社の営業たちに、「シェア向上を行い、売上目標を達成する」という重点施策について、聞きました。営業たちは、この重点施策について、以下のようなことを教えてくれました。
【営業】 実は、毎年同じ重点施策なんです。あれは「お客様への訪問件数を増やせ!」と言うことです。毎年同じことを言われていますよ。でも、もうこれ以上、訪問量を増やすのは難しいのですが。
一般的に、「シェア」を言う言葉は、「市場での占有率」のことを指します。そのため、A社の過去3年間の売上高と年間取引企業数を確認しました。そうすると、売上額も、年間取引企業数も、微増ではあるのですが増えていました。「シェア」という言葉の定義にもよりますが、「シェア」は増えていたのです。
達成できない目標を立てていた!
その後、新年度が始まりましたが、「シェア向上を行い、売上目標を達成する」という重点施策について、具体的な対策が行われているようには思えませんでした。行われていることといえば、マネージャーが営業たちへ「訪問量を増やせ!」と指示しているだけでした。この年度が終わった時、A社は、この年度の売上も訪問件数も増やすことができませんでした。営業担当者たちが言っていたとおり、既に相当な訪問件数だったので、営業一人ひとりの訪問件数が増えることはありませんでした。A社のその時の状況を考えると、「営業一人あたりの訪問件数を増やすことはできない」ために、「訪問件数を増やすことで売上を増やす」ためには、「新しい営業担当者を採用して、会社全体としての訪問総数を増やす」ことが重要でした(ただし、新しい営業担当者の採用はありませんでした)。
他のクライアント企業B社の営業マネージャーの目標設定や戦略策定も問題でした。B社の営業マネージャーが作成していた営業部方針にかかれていた重点施策は、5年間ずっと「新規顧客開拓」でした。そして、それが達成されないまま、5年間が過ぎていました。
このような目標設定や戦略策定では、部下はついてきません。以下がその原因です。
◆ 目標設定や戦略策定が計画や戦略というよりも、スローガンや精神論に近いものであった
◆ 無理なことを求められている
◆ 具体的な対策や挑戦がなく、もしくは、よく分からず、結局は「何しろやれ!」と言っているだけ
◆ 長らく同じ目標設定や戦略策定で新鮮味がない
なぜ、マネージャーたちは、このような営業方針(年間目標と重点施策)を作ってしまうのでしょうか?
なぜ、マネージャーは合理的な目標設定や戦略策定ができないのか?
基本的な年間方針の構造とは?
下の図は、私たちがクライアント企業に紹介している年間方針表のテンプレートです。年間方針を作成するときには、図のような項目で検討する必要があります。(【参照】 【マネジメント力強化研修】 方針作成&推進力強化 ~ 率いる部門を成長へ導き、目標を達成するための方針作成方法!(Hoshin Planning Method))
年間方針は、このような方針表を活用して以下の手順で作成します。
1. 上位方針の確認
2. 状況と背景の理解
3. 年間の目標(営業の場合には売上目標や粗利目標)
4. 重点施策(目標達成のための手段)
目標設定や戦略策定を行うための重要なコツは「原因と結果」思考!
A社の営業マネージャーが作成していた営業部門方針の年間目標は、「売上50億円の達成」でした。そして、その「売上50億円の達成」の年間目標のための重点施策が「シェア向上を行い、売上目標を達成する」でした。これを「原因と結果」という考え方に基づいて検証しましょう。「売上を達成する」は「原因と結果」で考えると「結果」に相当します。数値は基本的に「測定結果」なので、「結果」に相当します。そして「シェア向上」も「原因と結果」で考えると、シェアとは占有率で、数字として表せるため「結果」に相当します。A社の営業マネージャーは、この「原因と結果」の思考が十分に発揮できていませんでした。この「シェア向上を行い、売上目標を達成する」は、「シェア向上」も「売上を達成する」も数値なので重点施策とはならないのです。
目標設定や戦略策定を行う時には、この「原因と結果」思考を発揮することが必要となります。
「原因と結果」思考が弱いマネージャーの傾向
多くの企業のマネージャーは、目標数値に対する達成度が悪い場合、その原因を「メンバーの意識や意欲が原因である」と考える傾向があります。このような考えを持っているマネージャーが立案する目標設定や戦略策定には、下記のような意欲や意識に関わるスローガン的なことが中心となっています。◆ 圧倒的な行動量!
◆ 目標必達への決意!
「ブラック企業」と言われるような会社のマネージャーは、「毎月の売上を増やせ!」「訪問件数を2倍にしろ!」「毎日20件訪問するまで帰ってくるな!」というような行動目標を設定して、その行動量が達成できているかどうかの管理を行っています。そのような管理ばかりを行うと、社員は精神的にも肉体的にも疲弊し、考えなくなります。毎日「意欲を出せ!」「もっと行動しろ!」と言われ続けるからです。そのような会社では「自ら考え行動する社員」が育つことはありません(そのため、「ブラック企業」と言われている会社は、一人あたりの売上額/利益額は高くありません)。
「原因と結果」思考が発揮できず、「社員の意識や意欲が悪いことが原因である」と考えるマネージャーは、営業方針や営業戦略に「意識/気合/根性」にかかわるスローガンを掲げ、「行動量と売上結果」だけを達成目標とし、その結果、「何しろやれよ!」と言うだけになっています。このような営業マネージャーならば、誰にでもマネージャーはできるのです。
高い目標を達成するためには、「営業の意欲」「営業の行動力」だけに着目するのではなく、「原因と結果」の思考を発揮して、本質的な原因に着目することが大切です。
マネージャーとしての結果を出す技術が不足している!
以上のように、「マネージャーの目標設定と戦略策定のスキル強化」は、「営業組織が確実に目標を達成する」ために必須で解決すべき問題です。マネージャーたちが「手を抜いていた」「いい加減に仕事をしていた」わけではありません。多くのマネージャーは、真面目に仕事をしています。しかし、「マネージャーとして結果を出す技術(= メンバーを率いて結果を出す技術)」を学ぶことなく、マネージャーになってしまったのです。
一般的に、社員がマネージャーになる時には、管理者基礎研修(マネージャー基礎研修)を受講します。この管理者基礎研修では、管理者としての立場や役割などを学びますが、「マネージャーとして結果を出す技術(= メンバーを率いて結果を出す技術)」を十分学ぶことができません。
営業が営業で成果を出すためのスキルや方法を学ぶように、マネージャーにはチームが結果を出すためのマネージャーのスキルと方法を学習する必要があります。
この「マネージャーとして結果を出す技術(= メンバーを率いて結果を出す技術)」で、「目標設定と戦略策定をするスキル」や「それを支えるのが原因と結果を考える思考」を学ぶ必要があります。
「原因と結果」思考が発揮できないと、目標設定や戦略策定に合理性/効果性がなくなります。合理的かつ効果的な目標設定や戦略策定のためには、その基礎となるマネージャーの「原因と結果の思考」を強化すべきです。A社のマネージャーもB社のマネージャーも、他の多くのマネージャーも頑張って仕事をしていました。頑張っているのですから、マネージャーとして、より合理的に力を発揮して活躍してほしいと思っています。
(【参照】【マネジメント力強化研修】 リーダーやマネージャーとして「チームを率いて結果を出す仕事の技術」 ~ チームを「目標達成」「持続的成長」させるスキルを強化(Manager’s Business Technics))
マネージャーたちの目標設定力を鍛えるために!
A社の営業マネージャーが作成していた営業部門方針に書かれていた「シェア向上を行い、売上目標を達成する」のうち、「シェア向上」も「売上目標達成」も両方とも「結果」でした。すなわち、両方とも結果のことを言っており、その原因が推定・考察されていませんでした。その理由は、「営業マネージャーたちは、原因は営業たちの意識と行動にある」と思いこんでいたためでした。重点施策はこの様に書くと効果的!
では、「営業組織の目標を確実に達成する」ために、年度方針の「重点施策」にすべきことはなんでしょうか?「売上50億円達成」という目標に対して、効果的な重点施策の例は下記のようなものです。
◆ 営業各自の営業計画の変更(重点顧客への訪問数増加、もしくは、新規顧客への営業活動の増加)
◆ 価値提案力の強化(販売単価を改善)
◆ 商談での競合差別化(競合との勝率改善)
◆ 条件・価格交渉(値引き額の削減)
◆ 顧客分析の推進(大手顧客との取引額増加)
◆ 提案力の向上(アップセリング・クロスセリングの取引額増加)
以上のような重点施策は、「意欲ばかりを言う」「行動量ばかりを言う」というような従来型の営業マネージャーの重点施策とは違います。まず、以上のような「原因に対する対策や挑戦」となる施策を決定します。そして、その施策にKPI(Key Performance Indicator)とその目標数値を決定します。このように行うことで「売上50億円」という結果に向けた「原因に対する対策や挑戦」を重点施策とすることができます。
このような合理的に目標達成の可能性を感じる目標・戦略だからこそ、部下はついてくるのです。
「原因と結果」思考を強化する
結果を出すマネージャーは、「結果」だけに着目したマネジメントをするのではなく、「原因」に着目したマネジメントを行います。結果には必ず原因があります。本当に対策すべきは原因です。ですから、マネージャーは、結果にも原因にも、その両方に着目することが重要です。原因にも着目するから、下記のような原因追求を通して、重点施策となる「原因に対する対策や挑戦」を計画できるようになります。◆ 業務の仕組みに問題はないかを考える。
◆ ITシステムやツールに問題がないか考える。
◆ 営業ツールに問題がないか考える。
◆ 報告書や会議に問題がないかを考える。
◆ 部下とのコミュニケーションを促進しようとする。
◆ いろんな事実を把握しようとする。
◆ 相手に、厳しい質問を投げかけ、回答を求める。
◆ 相手に、考えさせるようにする。
◆ 相手に、違う行動を要求する。
◆ 課題解決の原則的なアプローチに相手を巻き込む。
◆ 起こっていることを構造的に考え、体系化する。
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まずは、マネジメント能力を高めることから始めよう!
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(本ノートは、2012年3月14日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳 (てらおたくみ, Takumi Terao)
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