「お客様を喜ばせる顧客応対」や「価値の高いサービスの提供」のためには、社員がマニュアル通りに業務を行うだけでは不十分です。業務マニュアルを理解した上で「自ら考え行動する」ことで、より良いお客様対応や価値の高いサービスの提供ができるようになり、その結果として事業成長という高い目標達成を可能にします。
長期的に成長している企業は、社員が「自ら考え行動する」ことを推奨しています。そのような企業の社員は、状況に応じた適切な判断ができ、時にはチームとなって組織問題の解決に挑戦しています。
「自ら考え行動する社員」を育成することは大切なのですが、部下に「自ら考え行動してほしい」と考えていながら、知らず知らずのうちに「自ら考え行動する」ことを邪魔している上司の行動も目につきます。マネージャーがどのような行動をすれば「自ら考え行動する社員」を育成できるのでしょうか。今回は「自ら考え行動する社員」を育成するために、マネージャーが今すぐ取り組める3つのシンプルな行動「聞く!」「見る!」「待つ!」を解説します。
「事業も社員もその両方が成長している企業」のマネージャーが実施している3つのシンプルな行動
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「自ら考え行動しいてほしい」と望んでいながら、上司が邪魔しているとは?
多くの企業のマネージャーたちは部下たちへ「自ら考え行動してほしい」と話しています。ですが、そう話していながら、上司がその「自ら考え行動する」を邪魔していることがあります。以下に紹介する事例はクライアント企業の中で実際に発生していた事例です。事例1: 目標が達成していない営業パーソンに営業課長が「残念」な先回りをしている会話
あるIT企業M社の営業課長Aさんと営業Bさんの間では、下記のような会話が行われていました。【営業課長Aさん】 目標を達成できていないね、なにがあったんだ?
【営業Bさん】 ええ…(ちょっと沈黙)
【Aさん】 訪問件数が少ないのが問題じゃないのか?
【Bさん】 ああ、そうかもしれませんね。でも、それほど極端に減ってはいないんですけど…(ちょっと沈黙)
【Aさん】 じゃあ、なにが問題なんだ、新規の開拓が少ないからじゃないのか?
【Bさん】 新規の開拓は上手く行っていないですね。 (ちょっと沈黙)
【Aさん】 営業は新規の開拓次第なんだからさ、もっと時間かけて訪問すべきじゃないのか?
【Bさん】 そうですね、やんなきゃいけないですね。(ちょっと沈黙)
【Aさん】 じゃあ、来月は新規訪問に1.5倍は時間をかけろよ!
営業課長Aさんは、部下である営業Bさんへ質問をしていましたが、実はAさんの頭の中には自分がした質問の答えがすでにある状態でした。そのためにBさんが答える前に、先回りをしてAさん自身の答えや考えを言っていました。そして、Aさんは、Bさんの考えを聞くことなく「来月は新規訪問に1.5倍の時間をかけるように!」と勝手に決めてしまったのです。
事例2: 業務改善に向け部長と担当者との面談。部長の「残念」な先回り発言
あるクライアント企業N社の業務改善・生産性向上の支援をしたとき、N社の部長Cさん/担当者Dさん/私の三人で行った面談は、以下にように進みました。【私】 N社の現在の業務の方法は、ライバル会社の業務の進め方と比較するとどのような違いがありますか?
【担当者Dさん】 ライバル会社との違いですか…(ちょっと沈黙)
【部長Cさん】 あの会社よりもお客様の要望に応えている業務をしているだろ、そういうことを答えれば良いんだよ。
【Dさん】 ああ、なるほど… (ちょっと沈黙)
【Cさん】 他にもあるだろう? 付き合いの深いお客様はだいたい我が社に問い合わせしてくるだろ、R社とか。
【Dさん】 そうですね…(ちょっと沈黙)
【Cさん】 (私に向かって)彼は自分の考えをなかなか言えないんですよ。それに仕事でもミスが多くて。
部長Cさんは「Dさんは私の質問に答えられない」と思っていました。そのため、Dさんが答える前に、先回りしてCさん自身の考えを言っていたのです。
上司たちの行動のどこが「残念」なのか?
事例1のM社の営業課長Aさんも事例2のN社の部長Cさんも「部下に育ってほしい!」という考えを持っている人たちでした。「困っているならば助けてあげたい!」という部下を助けたい気持ちも持っていました。そのような「部下への愛情」は大事です。しかし、残念なことに、その「部下への愛情」が「自ら考え行動する社員」を育てることに役立っていなかったのです。極端な例ですが、ブラック企業と言われる企業のマネージャーは部下に考える時間を与えません。部下の意見を一切聞かず、マネージャーが一方的に指示や命令するだけです。目標が達成できていなければ一方的に叱責します。
その理由は「相手を思い通りにコントロールしたい」からです。その結果、社員が考えなくなり、言われたことだけしか行動しなくなり、一見すると「使いやすい部下」へと変化していきます。上司から見ると「使いやすい」かもしれませんが、「高い結果を出すことができない人」へと変化させているのです。
一方、さきほど紹介したM社の営業課長AさんやN社の部長Cさんは「部下への愛情」は持っていました。そのため、ブラック企業のマネージャーとは全く違うように思えますが、「自ら考えない部下にしている」という点ではそれほど変わらないのです。
事業として高い目標を達成していくためには、社員が「自ら考え行動する」ことが必要不可欠です。そうしなければ、一人あたりの生産性は高まりません。
社員が自ら考え行動し、状況に応じた適切な対応ができることは、事業を成長させるためには必須です。言われたことだけを従順にやる「一見使いやすい部下」を育ててしまっては企業が長期的に成長することはできません。
「自ら考え行動する社員」を育成するために!マネージャーに今すぐできることとは?
では、「自ら考え行動する社員」を育成するために、どうしたら良いのでしょうか?「自ら考え行動する社員」を育成するために、マネージャーがすぐに挑戦すべきことがあります。メンバーを率いて結果を出しているマネージャーたちは、実際に以下の行動を行っています。「自ら考え行動する社員」を育てるために、以下の3つのシンプルな行動をお勧めします。
◆ 聞く!
◆ 見る!
◆ 待つ!
「自ら考え行動する社員」を育成するために「聞く!」
相手に考えさせるためには「聞く!」という行動、すなわち質問することが大切です。質問をすることは相手に考えさせるきっかけを与えます。M社の営業課長Aさんは「聞く!」ができていましたが、N社の部長Cさんはできていませんでした。この「聞く!(質問する)」をしっかり学び、効果的に活用できているマネージャーは少ないです。マネージャーには、この「聞く!(質問する)」をしっかり学ばせる必要があります。
「自ら考え行動する社員」を育成するために「見る!」
「聞く!」を行った後は「見る!」という行動、すなわち「観察」です。多くのマネージャーはこの「見る(観察する)!」が苦手で、できていないことが多いです。M社の営業課長Aさんのように多くのマネージャーは部下に質問をしますが、その質問をしながら頭の中では「次は部下に何を言うか?」「俺はxxxが必要だと思う!」などの答えを用意しています。相手に質問したあとは一旦会話が止まり沈黙になりますが、上司はその沈黙を早く終わらせようとします。その理由は「人は沈黙が苦手であること」と「すでに自分の答えを用意しているので、待っている時間がもったいない」と感じているからです。そのため、相手が回答する前に自分の意見や考えを言ってしまうのです。しかし、質問をしたのですから「言いたい!」気持ちはぐっとこらえて、相手(すなわち部下)の姿勢を見る(観察する)行動こそが必要です。ここで見る(観察する)行動をすることで、「相手は質問の答えを考えているだろうか、それとも、質問がわからないのだろうか?」を確認します。質問を考えているように感じれば、次の「待つ!」に進みます。ですが、もし、質問されていることが分かっていないようであれば、もう一度丁寧に「聞く(質問する)!」を行います。場合によっては、相手がわかりやすいように違う質問をする必要もあるでしょう。
「自ら考え行動する社員」を育成するために「待つ!」
相手が質問について考えている場合、マネージャーが次にすべきことは「待つ!」という行動です。こちらから聞いたわけですから、相手に考える時間と意見を言える機会を与えましょう。相手が考えているのにマネージャーが何か口を挟むということは、相手が考えていることを邪魔しているのです。相手がなにか言うまで我慢しましょう。相手が考えていることを邪魔することは厳禁なのです!総論 「自ら考え行動する社員」を育成するために「考えるきっかけ、考える時間、意見を言う機会を与える」
「自ら考え行動する社員」を育てたいのであれば、「自ら考え行動する社員が少ない!」と嘆くのではなく、まずは「自ら考え行動する社員が育てられるマネージャー」へと自分自身が変化しなければなりません。まずは、マネージャーが「聞く!」「見る!」「待つ!」行動ができるようになるべきです。これらの行動は、部下である相手に以下のような機会を与える行動です。
◆ 考えるきっかけを与える
◆ 考える時間を与える
◆ 考えた意見を言う機会を与える
例えば、MBO(目標管理)の達成度を話し合う個別ミーティングやチーム全体の進捗会議などにおいて、マネージャーには下記の姿勢が求められます。
◆ 相手に質問したら、相手を観察する
◆ 相手が考えているのであれば、相手がなにか言うまでじっと待つ
「じっと待つ」といっても実はせいぜい1~2分程度です。わずかな時間ですから相手が考えるための時間を与えましょう。相手に「考える」「考えを言う」時間と機会を与えることが大切です。これを繰り返すことで部下は「自ら考える」ように育ちます。
【解決策】 2つの「残念な事例」は、こうすればよかった!
「聞く!」「見る!」「待つ!」の行動の意味を理解した上で、先ほどのM社の営業課長AさんやN社の部長Cさんの問題をもう一度確認しましょう。M社の営業課長Aさんが行っていた残念な行動
事例1のM社の営業課長Aさんの場合、相手に「聞く!」行動はできていました。ですが「見る!」「待つ!」行動ができていませんでした。相手が自分の考えを口にする前にAさんは以下のような自分の考えを押し付けていました。◆ こうしたらどうか?
◆ ほかにこういうことも問題だよな!
結局の所、「部下が考える時間」「部下が自分の考えを言う機会」を奪い、Aさんの考えを押し付ける状況になっていました。
N社の部長Cさんが行っていた残念な行動
事例2の部長Cさんの場合、私が担当者Dさんに「聞く!」行動を行いましたが、Cさんは「見る!」「待つ!」行動ができていませんでした。その結果、「部下が考える時間」「部下が自分の考えを言う機会」を奪い、Cさんの考えを押し付ける状況になっていました。個別面談やチームでの会議において以上のことが繰り返されると、本来は「自ら考え行動する」能力がある社員であっても、徐々に考えなくなり行動しなくなります。
「聞く!」行動をした後の「見る!」「待つ!」行動がいかに大事で価値ある行動か、ご理解いただけましたでしょうか?
命令よりも「部下が自分の考えを言うきっかけと時間と機会を与える」方が「自ら考え行動する社員」を育成できる
自分の考えを部下に受け入れさせ、取り組ませる方法は2つあります。1つ目は「自分は上司なのだから、自分の言ったとおり行え!」という役職の高さ(ポジションパワー)を利用して命令する方法です。これも部下に行動させるための方法の1つで、上司であるマネージャーはこの方法を利用することも必要です。
しかし、この方法には問題点もあります。この方法ですと、部下は意欲的には行動しません。押し付けられたことなので納得していないからです。この方法ばかりを行いますと、ブラック企業的な状況となります。社員が考えなくなり、自ら行動しなくなり、言われたことだけしかやらなくなります。その結果として、社員たちは疲弊し、目標の達成が難しくなり、そんな中でも目標を達成するために長時間労働をしなければならない環境を生み出す結果になってしまうのです。部下が考える前に先回りして結論を出してしまうマネージャーも、ブラック企業のマネージャーとは違うようでも同じ結果となっているのです。
2つ目の方法は、今回ご案内した「部下が自分の考えを言う時間と機会を与える」方法です。優秀なマネージャーはこの方法も活用して部下を育てています。まず、部下に考えさせます。そして、考える時間を与えます。そして、自分の意見を言わせる機会を与えます。さらに、部下の考えと上司の考えを比較し、同じところと違っているところを検討します。上司の考えの方がよいケースであっても、押し付けるのではなく、部下が自分から上司の考えを選択するように誘導します。だからこそ、部下が主体的に行動するようになるのです。この効果は絶大です。
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効果的に「自ら考え行動する社員」を育てる方法はまだまだある。積極的に取り入れよう!
社員が自ら考え行動するようになり、状況に応じた適切な対応ができ、時にはチームになって組織問題を解決できるようになれば、企業は成長します。成長を続ける企業は、社員たちに自主的な行動やチームによる問題解決に挑戦することを推奨し、そして、そのような「自ら考え行動する社員」を評価し、一人でも多く育てようとしています。今回解説した「自ら考え行動する社員」を育てるための「聞く!」「見る!」「待つ!」行動は基礎的なことです。ですが、これを苦手としているマネージャーは多いです。下記のような学習機会を与え、そのことを評価対象とすることが大切です。
◆ 「自ら考え行動する社員」を育成できるマネージャーになるための「行動変容」研修
◆ 「自ら考え行動する社員」を育成できるマネージャー評価の見直し
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(本ノートは、2018年2月28日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳 (てらおたくみ, Takumi Terao)
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