STOP! 営業が無意識に行う「安易な値引き」「意味のない値引き」 ~ 値引きを減らして、売上と利益の両方を増やす3つの適切な対策!

営業パーソンは「できるだけ値引きせずに売りたい」と考えています。ですが、お客様は「もっと安く買いたい」と望んでいます。そのため、お客様との商談では値引きの話が多くなります。「注文をとる」ための価格交渉は、営業パーソンにとって重要な仕事の1つです。

営業パーソンの営業活動に同行訪問をすると、「安易な値引き」「意味のない値引き」が目につきます。「安易な値引き」「意味のない値引き」とは、「必要のない値引き」という意味です。もちろん、すべての値引きがダメなのではありません。受注するためには効果的で会社の損失を最小限にできる(もしくは、将来の機会を増やすことができる)「意味のある値引き」もあります。

しかし、値引きそのものは、そのまま売上だけではなく利益も減らします。今後の会社の成長機会となる投資余地を失い、そして、社員の給与や報酬の原資を失っているのと同じです。

どうすれば、安易で意味のない値引きを減らすことができるでしょうか。安易で意味のない値引きを減らし、売上と利益を増やすための対策について解説します。

値引きを減らして、売上と利益の両方を増やす3つの適切な対策!

「安易で意味のない値引き」発生の事例とは?

営業パーソンが行っている商談を観察していますと、以下に説明するような、安易で意味のない値引きをしていることがあります。営業Aさんは、問い合わせがあったお客様と面談し、商品を紹介していました。

【営業Aさん】 この機種は以前の機種と比べ15%ほどスピードが早くなっています。以上がお問い合わせをいただいたこの製品の特長です。

【お客様】 なるほど、よさそうですね。ちなみに価格はいくらですか?

【営業Aさん】 標準価格で約1,000万円です。

【お客様】 それはちょっと高いですね。予算が足りるかなあ?

【営業Aさん】 わかりました。価格は検討します。ちなみにいつごろご導入を考えていますか?

【お客様】 2~3ヶ月後くらいですね。一度見積りをもらえますか?

【営業Aさん】 では、早いうちにお持ちします。

上記の商談の後、仮に営業Aさんがすぐお客様に見積りを出したとしても、お客様が注文するまでには少なくても2~3カ月はかかります。通常、お客様が法人企業の場合、購入するまでに一連の社内手続きを行う必要があります。営業Aさんが見積りを出した後、すぐに注文となることは少ないです。

また、以上のように商品の金額が大きれば大きくなるほど、お客様はより上層部の承認を取る必要があります。そのため、社内調整にさらに時間がかかり、注文までの時間はさらに長くなります。営業としては早く注文してほしいわけですから、営業Aさんはお客様にクロージングを行います。クロージングとは、「早く買っていただくためのアプローチ」のことです。

営業Aさんは、このお客様へ見積もりを持って行ったときに、以下のようなクロージングを行いました。

【営業Aさん】 どうすれば早くご購入いただけますか。すぐにでも発注いただければ、お値引きをさせていただきます。

営業Aさんがこの一言を発した瞬間から、お客様と営業Aさんの話題の中心は、「価格をいくらまで下げてくれるか?」および「いつ発注してくれるか?」の2つとなりました。営業Aさんは、もともとは製品の価値をアピールして、「値引きを少なくしたい」とは考えていたのに、です。

しかし、そんなことはすっかり忘れて、「早く注文してもらいたい!」という気持ちから、「すぐ発注してくだされば、お値引きをしますよ!」と、「価値を中心とした商談の話題」から「値引きを中心とした商談の話題」へと変えてしまったのです。この事例は、営業Aさんだからやってしまっていたことではなく、他の企業の営業パーソンでもよくやっていることです。

どうして営業パーソンは「値引きを少なくしたい」と言いながら、結局「安易な意味のない値引き」をするのか、その3つの原因とは?

どうして営業パーソンは「値引きを少なくしたい」とは思いながら、自ら値引きを話の中心として商談を進めてしまうのでしょうか?

その安易で意味のない値引きの原因は3つあります。

◆ 原因1. お客様から聞いた失注理由のほとんどが「価格」だった
◆ 原因2. 営業マネージャーの売上見込管理が、短期的視野なため
◆ 原因3. 商談状況を把握できていないために発生する判断ミス

原因1. お客様から聞いた失注理由のほとんどが「価格」だった

営業Aさんには、過去数多くの商談の経験がありました。残念ながら失注した商談もありました。失注してしまった場合、次には失注しないようにするために、お客様へ失注理由を確認していました。その際、ほとんどのお客様は「価格ですよ」と教えてくれました。この言葉を聞いた営業Aさんは、「値引きすれば勝てる!」という意識を強めていきました。

原因2. 営業マネージャーの売上見込管理が、短期的視野なため

2つ目の原因は、営業マネージャーの管理の方法です。営業会議や売上予測の話し合いにおいて、一般的には以下のような会話が行われています。

◆ この商談は受注できるのか?
◆ いつ注文がもらえるのか?
◆ 売上が足りないから、早く注文もらえないか?

以上の言葉から、営業マネージャーは「今月の売上目標の達成のことで頭がいっぱい」になっていることが明らかです。2~3ヵ月先を見越した売上予測の事が頭にないので「早く受注せよ」としか言いません。マネージャーから「売上が足りないから、早く注文もらえないか?」と聞かれた多くの営業パーソンは、「わかりました。なんとかしてみます。」と回答するしかありません。この場面で、実際に営業パーソンができる策というのは、「早く注文をいただけませんか。価格が問題でしたら少し安くしますから…」という値引きを活用したクロージングです。

原因3. 商談状況を把握できていないために発生する判断ミス

3つ目の原因は、営業Aさんが商談状況を把握できていないために発生する判断ミスです。お客様の状況や商談のタイミングを見極めた価格交渉ができていないために、意味のない値引きをしてしまうことになります。

先ほどの営業Aさんの商談を例として、いくつかのケースを考えてみましょう。

【お客様】 それはちょっと高いですね。それだと予算が足りるかなあ?

【営業Aさん】 わかりました。価格は検討します。ちなみにいつごろご導入の予定ですか?

【お客様】 2~3ヶ月後くらいですね。一度見積りをもらえますか?

一般的に、お客様は、以下のような購買プロセス(下図)に沿って、購入を検討します。この購買プロセスにおいて、この営業Aさんとお客様の会話が行われたのが「予算計上」のステップだったらどうでしょうか?

「予算計上」ステップで、営業パーソンが値引きをした見積りを出したとします。そうすると、お客様は値引きした金額で社内の予算を申請します。その後、お客様との商談が進めば、最終段階で「価格交渉」というステップがあります。その価格交渉のステップで、お客様はもう一度値引き要求をします。予算の段階で1回値引きをし、そして、価格交渉で2回目の値引きをする、すなわち2回も値引きすることになるのです。

次に、営業Aさんとお客様の会話が行われたのが、「ソリューション選定」のステップだったらどうでしょうか?

もし、「ソリューション選定」であれば、ライバル会社(競合)はすでにお客様と十分な商談を行っている可能性が高いです。この商談はライバル会社のほうがすでに有利なのです。このような場合は、価格の話を持ち出す前に、お客様の要望を把握し、その要望に対する競合との優劣の比較検討を行い、値引きなしでも勝てそうかどうかを判断する必要があります。「競合に対してかなり優位」とわかった場合には、そのことをお客様に丁寧に説明した上で、まずは値引きをしない見積りを出します。「競合に対して差がない」もしくは「劣っている」場合には、値引きをする必要があります。

この値引きは、「意味のある値引き」です。値引きをしてでも勝つべきでしょう。このように、商談状況の判断を間違うと、必要以上の値引きをしてしまうのです。

「安易な値引き」「意味のない値引き」をなくし、売上と利益の両方が増える3つの対策

どうすれば、安易で意味のない値引きを減らすことができるでしょうか?

以下の3つの対策を行うことで、「安易な値引き」「意味のない値引き」を減らし、売上と利益の両方を増やすことができます。

◆ 対策1. 普段から「お客様が私たちから購入した理由」を集める
◆ 対策2. 営業マネージャーの売上管理方法を見直し、売上予測の精度を高める
◆ 対策3. 営業パーソンに「プロセスによる営業手法」の教育を徹底する

対策1. 普段から「お客様が私たちから購入した理由」を集める

営業パーソンが過去経験してきた「値引きをすれば勝てる!」という潜在意識を払拭する必要があります。そのために、受注できたお客様の選定理由を集める活動が必要です。

購入してくれたお客様に、「私たちを選定した理由はなんでしたか?」と伺います。通常は、「価格」と答えることが多いのですが、「価格以外」の選定理由もあるはずです。その「価格以外」の選定理由がたくさん集まれば、「値引き以外でも買ってもらえる要因があるんだ!」と営業パーソンたちが認識し始めます。多くの営業組織は、この「お客様が私たちから購入した理由」をほとんど集めていません。

ですが、この理由集めは、値引き交渉上、重要な情報なのです。「価格以外」の選定理由を集めるようにしてください。

対策2. 営業マネージャーの売上管理方法を見直し、売上予測の精度を高める

営業パーソンが安易に値引きをしなくなるためには、営業マネージャーの売上管理方法を見直すことも大切です。値引き額の多い営業組織のほとんどは、「今月はいくら売れるんだ!」「なんとか前倒しして今月中に売れ!」という短期的な視野での営業管理が行われています。

お客様に予定よりも早く注文をしてもらうためには、何かしらのメリットを提供しなければいけません。それが値引きにつながっています。売上見込管理を今月分だけではなく、3ヶ月先までおこなってください。上述したとおり、営業マネージャーが今月分だけの売上見込管理をしていると、「安易で意味のない値引き」を増やします。3ヶ月位先を見て、それぞれの商談の売上予測の精度を高めれば、必ず値引き額は少なくなります。

対策3. 営業パーソンに「プロセスによる営業手法」の教育を徹底する

最後の対策は、営業パーソンに対して「プロセスによる営業手法」の教育をすることです。営業パーソンがお客様の購買プロセスを判断できれば、適切な対応をすることができ、値引きを減らすことができます。

【お客様】 なるほど、よさそうですね。ちなみに価格はいくらですか?

【営業Aさん】 標準価格で約1,000万円です。

【お客様】 それはちょっと高いですね。それだと予算が足りるかなあ?

この商談が購買プロセスの「予算計上」ステップならば、営業パーソンが行なうべきことは何でしょうか? 「予算が少ない」と言われても、値引きをした見積りを安易に出すのではなく、その前に下記のような対応が必要です。

【営業Aさん】 ええ、価格に懸念があることはわかりました。私もそのことを念頭に置いておきます。まずは、お客様にとって本当に必要な機能や条件を明確にしませんか。その方が、お客様にとって、意味のある購入ができると思います。

営業パーソンがこのような対応をしていれば、この段階で1回目の値引きをしないで済む確率が高まります。このように商談を購買プロセスという視点で考えることによって、安易で意味のない値引きをへらす対策を講じることができます。

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「安易な値引き」「意味のない値引き」をやめて、売上と利益を増やそう!

「値引きを一切してはいけない!」ということではありません。ですが「何から何まで値引きをしてもよい!」ということでもありません。簡単に「安易で意味のない値引き」をしてしまうのではなく、購買プロセスで考えて値引きの必要性を見極めるべきです。つまり、営業パーソンは、「値引き」だけを武器にせず、もっと「利益」に対しても責任をもつべきなのです。

「『安易で意味のない値引きする』ということは大きな損失につながる」ことに気づいていただきたいです。値引きは売上も利益も失う行為です。「安易な値引き、意味のない値引きをしない」という視点で見ればその効果が明らかです。もし、あなたの会社の値引き幅を10%少なくすることができたら、どのくらい利益が増えるのでしょうか?

営業パーソンに対して「値引き要求の対応方法」の研修を行い、営業現場で実践させることは企業の成長にとっても大切なことです。「お客様にヒアリングをする」「お客様にプレゼンをする」など、商談発見やクロージングするための営業研修はたくさんあります。しかし、「値引き要求に対して、どのような対応をすれば良いか?」を学ぶ営業研修というのは多くありません。

まずは、このノートでご案内した3つの対策をぜひ実施してください。あなたの会社の営業組織の値引き額は必ず少なくなります。ですが、対策を実施しても値引きが少なくならないのであれば、遠慮なく連絡ください。何処かにその原因があります。私たちがその原因を特定し、貴社の値引き額を減らし、その結果として、売上と利益の両方を増やすお手伝いをいたします。

(本ノートは、2008年8月24日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳(てらおたくみ, Takumi Terao)
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